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読書感想:小栗虫太郎『黒死館殺人事件』

最近は,通勤時間が長くなった影響もあって,電車の中で読書する時間が大幅に増えました.
といっても,そこそこ混雑する通勤電車の中でミステリ雑誌を読み漁るのは少々骨が折れますし(とりあえずチャレンジはしてみたけど,ものすごく肩が凝ります),ここしばらく新刊も古本も買いに行っていないので文庫本のストックも少ない.
そんな中,「そういえばiPod touchで青空文庫が読めるアプリがあるじゃないか!」と思い立って,車内で使ってみることにしました.
ちなみにiPod touch用の青空文庫のアプリケーションは,ちゃんとお金を出して買いました.i文庫というアプリなのですが,対価を払うだけの価値はありますね.他にも同等の機能を持った青空文庫リーダがたくさんあるので,興味がある方は体験版を試してみるのがよいかと思います.

で,青空文庫の本棚を眺めてみると,なんと当Blogのタイトルにもなっている推理小説『黒死館殺人事件』が入っているじゃないですか.
実はこの本,以前に(たぶん全部)読んだはずなのですが,あまりに難解というか不可解というか,まぁそんな内容なので結末は覚えていても話の流れはまったく覚えていない(読んだ人ならわかるはず.)
これは,読み直すチャンスですよね!?



で,結局は2週間くらいかかって,ようやく読破することができたのですが・・・やっぱりよくわからないw

物語は,黒死館と渾名される館で起こる不可解な連続殺人事件に法水麟太郎という探偵が挑むという,まぁ館モノの基本系.・・・なのですが,登場人物(とくに主人公の法水)のしゃべる薀蓄だらけの台詞が,どこまで本筋と関係あるのかまったくわからないw
まじめに推理していると思えないような,こじつけ,発想の飛躍が,ありえないほど博識すぎる真犯人の暗合趣味を次々と暴いていくのは,中盤あたりからだんだん(ちょっと歪んだベクトルを伴って)楽しくなってきますが・・・やっぱりわからないw

黒死館には,呪われた血統の降矢木家と,前当主(故人)である算哲によって幼少のころに集められた4人の異国人,若い現当主や血縁者,執事,司書,秘書,召使いといった面々が住まっていて,彼らがつぎつぎとゲーテの『ファウスト』に見立てた不可解な死を遂げていくのですが・・・トリックが突拍子もなくてやっぱりよくわからないw
おそらくは物語全編がヒントだらけなのですが,それをヒントとして真相にたどりつくには,京極堂並みの膨大な知識量が必要でしょう.正直なところ,読んでいてもヒントだったと気づけない.わかるはずがないw

とまぁ酷評しているように見えるかもしれませんが,そういう内容にもかかわらず,黒死館殺人事件はミステリ好きとしてはぜひ読んでおきたい一冊でないかと思います.
面白い/面白くないは個人の特性によるものですし,苦手な人が多い作品だとは思います.
思うのですが,この本が面白いかどうかとか,そんなことは実のところあまり重要ではないです.
苦手な人でも,ミステリ好きであれば読んでおいて損することはないと断言してもよいくらい.

まず,ミステリ好きの心得として読む.
この本の持つ影響力だとか,奇書としての価値(日本ミステリ三大奇書の1冊に数えられます),現代での神格化されっぷりや,数々の作品からのオマージュされている点などなど.そういったものを楽しみながら,読むのが現代のミステリファンにとっての黒死館なのではないかと思います.
とくにオマージュされることの多い作品なので,他の作品を読む時の楽しみが増えますしね.

さらに,全編に散りばめられた異様な数の薀蓄や伏線,雰囲気などを含んだ衒学趣味(ペダンタリ)小説の頂点としての楽しみ方ができる方ならば,この作品はものすごく魅力的なもののなるでしょう.
はたまた,メタミステリ,アンチミステリとしての視点から見て楽しめる方は,並のメタミス/バカミスとはまったく次元の違うハイレベルな趣向を味わえるはずです.


その上でさらに純粋にミステリとしても黒死館を楽しめれば,ものすごく儲けものではないでしょうか.


たぶん10人読めば3人は途中で投げ出す・・・と書こうとして,「そんなことはないのではないか?この圧倒的な文書の前にはミステリ好きならば投げ出すことができなくなるのではないか?」とふと思ってしまうような(その数秒後には,そんなわけないな・・・と思い直すわけですが)簡単には評価のできない作品です.
個人的には,なんだかわけのわからないトリック,心理分析,神秘主意や暗合&暗号といった薀蓄の洪水にやられてしまっていて,どう締めくくっていいのかすらわかりません.
まぁ楽しんで読めたというのが,唯一わかっている事実かも?

by unep | 2009-12-15 23:57 | 読書

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